2016年09月09日

32年間眠っていた蔵を建て直す32才 阿武の鶴 by 田中

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ラベルはクラシック、笑顔と味はフレッシュです!

「休蔵(※1)していた蔵を建て直そうとしているおもしろいやつがいるから」
2015年3月、水害で使えなくなってしまった蔵を新しく建て直した東洋美人(※2)を見学させてもらった後、“セクシーな酒”を醸す杜氏澄川さんはそう言って車を走らせた。萩から北東に走ること約40分、辿り着いたのは日本海に面し、島根県にも近い阿武町(あぶちょう)。
そこに待っていたのが、本日の主役阿武の鶴酒造の三好隆太郎さん。

「これでもだいぶん片づけたんですよ」と、石造りの槽(ふね)(※3)や木桶など30年以上使われずに眠っていた酒造りの道具があちらこちらに見られる蔵の中を案内するその口調は穏やかで、表情もやわらか。酒蔵として“休んでいた”状態だとはいえ、物理的にも経営の面でもほぼゼロからの立ち上げ。その重圧は相当なものだと想像できるが、覚悟や気負いは安易には表に出さない、実直な人柄が印象に残った。

蔵訪問から約1年半。蔵の再建設に先立ち、昨年冬から東洋美人の蔵を間借りして造った27BY(※4)のお酒を手に店に来てくれた三好さんに、少し話を伺った。

Q 家が酒造りをしていたということ、その面影などは小さい頃からありましたか?
A 蔵が最後にお酒を造った昭和58年(1983年)に僕は生まれました。祖父の代まで造っていたのですが、もちろんその記憶はありません。親父もビールを飲んでいましたし(笑)。覚えている限りでも、祖父が大手の日本酒を飲んでいたかな? というくらいで、特に家の中で、酒屋ということや日本酒の存在を強く意識したことはありませんでした。


Q 酒造りをしようと思ったきっかけは? 
A 大学を卒業して、アパレル店舗を設計する会社に就職しました。2年勤めた後独立しフリーで設計をしていたとき、ふと「酒造ってみようかな」って思ったんです。まずは本を読みました。酒造りについて書いてあることは米と水を発酵させて造る、という単純なことに見えるのに、意外と深いな…と。

Q ふと…そんなところから、どうして蔵を建て直すまでに?
A 実際に酒造りをしてみたいと、ハローワークやネットで調べて、働ける蔵を探しました。25、6才の頃です。この頃は自分の蔵を建て直すなど思ってもいなかったので、一般の人として普通に面接を受けて、働いていました。最初は千葉の蔵で働いて、そこから埼玉、岐阜、青森、そしてまた岐阜の蔵に戻りました。単純だと思ったのに、造れば造るほどわからない…と思いながら続けていました。そのうちに、どうせ造るならば自分の蔵で造りたい、できるかも、と思うようになりました。

Q 各蔵の現場はどうでしたか?
A 埼玉の蔵は日本酒以外にもワインやビールなどいろんなお酒を造っていたので、今思うと勉強になりましたね。ワインも酒母(※5)をたてて造っていました。

Q 今年は澄川さんの蔵を間借りして造られているそうですが、実際に自分主導で造ってみてどうですか?
  三好さんの酒造りを傍で見ていた澄川さんは「三好くんは“売れる酒”ではなくて“飲みたい酒”を造っている 
  ね」と言われていましたが。
A 澄川さんの言葉、意外ですね。確かに、自分は微妙なところを攻めたいな、と思っています。華やかで甘いお酒は目指していません。ああ、でも大吟醸はやっぱり華やかでもいいかなとも思いますが、純米に派手さは求めていません。完全発酵のいわゆる辛口のお酒もいいですし、華やかな甘いお酒もおいしい。そのちょうど微妙なところ、が狙いです。27BYはタンク4本、せっかくなので、酵母、麹、仕込み配合などいろんな組合せ、スペックのものを造っています。

Q 今発売しているラベル、古いデザインですね。渋いです。
  ある意味店頭でも目立ちますが…。
A 実は次のお酒からラベル変わります(笑)。銘柄も変えて、「三好(みよし)」にします。名前は、みよしを当て字にしようか、屋号にしようか、などいろいろ検討しましたが、漢字に落ち着きました。酒造りは「三」という数字に縁があります。材料も3つですし、工程も3つ(三段造り)ですし、個人的にも数字の3が好きというのもありまして。ラベルも「三」をデザインしてもらいました。一つ一つの横棒が、それぞれ酒造り工程を表していて、そこからお酒の滴がしたたっています。これからはこのラベルでよろしくお願いします!


年内は東洋美人で酒造りを続け、年明けからはいよいよ自蔵で醸す予定。
これからの三好さんのお酒、新生阿武の鶴のはじまり、そのはじまりの1本からを飲むことができると思うと、ドキドキするのは私だけではないだろう。


※1 休蔵…酒蔵が酒造りをやめている状態のこと
※2 東洋美人(澄川酒造場)…山口・萩の蔵。2013年7月大雨により近くの
   川が氾濫、蔵に浸水し、蔵がほぼ使えない状態に。2015年春に最新設備
   を備えた3階建ての新蔵が完成した。今回の三好さん然り、壱岐で日本酒
   造りの再興を試みる重家(おもや)酒造の横山さんも澄川さんを師と仰ぎ、
   間借りをして酒造りをしている
※3 槽(ふね)…酒を搾る装置。お風呂の浴槽のような四角い凹みに、醪
  (もろみ・お酒を搾る前のドロドロした状態のもの)を袋に入れて並べ、
   重ね置き、上から圧力をかけてお酒を搾る
※4 BY…醸造年度Brewery Yearの略。毎年の7月1日から翌年の6月30日までをいう
※5 酒母(しゅぼ)… 蒸し米・水・麹を混ぜ、酵母を加え培養したもの。
  その字の通り酒造りの大元となるもの。酛(もと)ともいう。
  一般的なワイン造りでは、酒母をたてて…という方法はめずらしいのでは?



◎阿武の鶴 純米吟醸 炎〜en 1.8l 3,240円
クラッシックなラベルとは打って変わって上品で洗礼された口当たり、
サラッと口を通ると広がる吟醸香と程よい甘味。後味に辛味がキッチリ整えてくれます。
ネットショップ http://todoroki-saketen.com/goods/1469709491616/



[取材日 2016年8月10日
     2015年3月に山口でうかがったお話も少し交えています。
 取材・文/田中美佳]

posted by スタッフ at 13:37| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | お酒の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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