
TAMAがやって来たOi Oi OI! by 轟木 渡
ある日を機にお酒がガラリと変わった。
今までのイメージとは違うふくらみがあるのだ。
福岡最古の蔵として300年以上のの歴史を持つ大賀酒造は変化の真っ只中。
大宰府の玄関口、二日市に位置し、敷地内に宝満山の伏流水が沸く井戸か有る。
酒造りは延宝元年(1673年)に始められたという。
ここに新しい風を吹き込んだのは新しく杜氏となった
ロック魂溢れる宮崎哲成氏。
造り中の蔵をたずねると蔵人と忙しく走り回っている。
新酒をいくつか利き酒する。
昨年とはあきらかに違う。
味が豊かになっているのにお酒が綺麗になっているのだ。
杜氏が目指す酒は「潔い酒」。
彼の醸した「TAMA」は穏やかな米のふくらみが知らず知らずに杯を重ねてしまう。
これは博多の食彩に寄り添う「いつもお酒」かもしれない。
福岡のお酒のニュースタンダードとして今後も注目してほしい。
TAMA Feat.たまでいずみ
純米 あらばしり
1.8L 2,835yen
720ml 1,418yen
火入れももうすぐ出ます!
問合せは、とどろき酒店まで TEL 092-571-6304

宮崎杜氏(右)と相棒の田中さん。
今年はこのふたりのグルーヴで生まれた酒が出てくる。
玉出泉*からTAMAヘのバトン by 田中
代々大賀酒造の酒造りは、小値賀杜氏(おじかとうじ)が担ってきた。
長崎県、五島列島の北側に位置する小値賀島で、夏は漁をして生計を立て、
漁のできない冬になると海を渡り酒造りにやってくるプロの酒造り集団。
昔はこのように冬の時期だけ酒造りをする集団が全国にいた。
4年前の冬、小値賀杜氏のことを知りたくて取材を申し入れた私は
大賀酒造の火床*にいた。
十代になったばかりのころに酒造り集団の頭である杜氏*に申し入れをし、
酒造りの一員となり現場叩き上げで自らも杜氏になった永田さんは、
一つ質問をするとひと言返ってくる、その繰り返し。
少し伏し目がちな表情からは、酒造りのことは語るまでもない、
毎年のことであって、特別なことではないと言われているような気がした。
そうやって彼らは、黙々と蔵の歴史の一部を作りあげてきた。
その蔵人の中に一人、異質な若者がいた。
それが現在の杜氏、宮崎哲成さん。
酒造りが好きで酒を造らせてくださいと、
ある日突然バイクにまたがり北九州から蔵にやってきたのだという。
昨年小値賀杜氏が引退をし、酒造り7年目の宮崎さんが杜氏に抜擢された。
ロックTシャツを着て、ハーレーにまたがり、ロックの話をすると目が爛々とする。
「お酒造りは一人ではできない、バンドみたいなもの。
どんな酒が造りたいというよりも、そこにいるメンバーがいいグルーヴを生めば、いい酒になる」。
彼の酒造りも現場の叩き上げ。前の杜氏さんを見て身体で覚えてきた。
古い道具も使いこなし、「前の杜氏さんがやってたからっすね」と軽やかに言う。
新しいのはじまりのなかに、これまでの杜氏たちから受け継いでいる見えないバトンがあるのが見えた。
*玉出泉…大賀酒造の代表銘柄
*火床(ひどこ)…蔵のなかの休憩場所のこと
*杜氏(とうじ)…酒造りの現場監督